〈書き下し文〉
范(曄)ノ書(=後漢書)、汗ヲ倭ニ作ル。惠棟曰ク、汗ハ當(マサ)ニ
[シ于]ニ作リ、倭與(ト)同音ナリ。『魏志』ニ云フ、「倭人好捕魚鰒水無淺深皆沈没取之」。丁謙曰ク、汗人國ハ朝鮮南境ノ馬韓辰韓弁韓等ノ部ヲ指スト。范氏(范曄)ノ改メルトコロ倭人ト爲スハ謬(=誤り)甚(ハナハダ)シ。倭ハ今ノ日本ニシテ遠ク洋ヲ重ネテ隔リ、(檀)石槐ノ強ナルト雖(イヘド)モ能(ヨ)ク至ル所ニ非ズ、安(イズクン)ゾ之ヲ伐ツコトヲ得ム。(盧)弼(=『三國志集解』の編者:乃ち自分)按ズルニ、丁氏(丁謙)ノ謂フ汗人ハ倭人ニ非ズシテ、誠ニ是レ然リ汗國ヲ指シ朝鮮南境ト爲スハ亦(マ)タ無據ナリ。
〈口語意訳〉
范曄の『後漢書』は汗を倭に作る。惠棟は言う、汗はまさに[シ于]に作り、倭と同音であると。『魏志』には「倭人好捕魚鰒水無淺深皆沈没取之」という。丁謙は言う、汗人国は朝鮮南境の馬韓辰韓弁韓等の部分を指すと。范曄が改めて倭人としたのは誤りも甚だしい。倭は今の日本であり海を遠く隔てている。檀石槐がいくら強いと言ってもとても至ることの出来るものではなく、どうしてこれを伐つことが出来るだろうか。私が考えるに、丁謙の言う汗人は倭人ではなくて、まさにこれは汗国を指し、これが朝鮮南境のことであるとするのは根拠のないことである。