校史隨筆『三國志』原文/書き下し/口語意訳
  衢州本爲上建本次之
衢州本國志.余曾見數部.多有元明補刊之葉.涵芬樓所藏版印極精.無一補版.然祇存魏志.又於靜嘉堂文庫見昔士禮居所藏宋刻單行呉志.又於松江韓氏見宋刻小字本.然亦僅存魏志九巻.元有池州本.半葉十行二十二字.此較易得.余亦曾見二部.版印均佳.然訛字極多.難稱善本.無已.其惟此建本乎.

衢州本ヲ上ト爲シ建本之ニ次グ。
衢州本國志ハ余曾(カ)ツテ數部ヲ見タリ。元明補刊之葉多ク有ル。涵芬樓所藏ノ版ハ印、極メテ精ナリ。一ツノ補版モ無シ。然シ祇(マサ)ニ魏志ヲ存スノミ。又靜嘉堂文庫ニ於ヒテ、昔、士禮居ノ所藏スル宋刻單行呉志ヲ見ル。又、松江ノ韓氏ニ於ヒテ宋刻小字本ヲ見ル。然レドモ亦、僅カニ魏志九巻ヲ存スノミ。元ノ池州本有リ。半葉十行二十二字。此較(的)得易シ。余、亦曾(カツ)テ二部ヲ見ル。版印均シク佳。然レドモ訛字極メテ多ク、善本ト稱シ難シ。其レ(善本)惟フニ此ノ建本ヲオイテ已ニ無キ乎(カ)。

衢州本を上と爲し建本は之に次ぐ。
私はかつて衢州本(三)國志數部を見た。元代明代補刊の葉が多く有る。涵芬樓所藏の版は印刷が極めて精密である。一つの補版も無い。しかしまさに魏志を残すのみである。又、靜嘉堂文庫に於いて、昔、士禮居(清朝の蔵書家黄丕烈の叢書)が所藏していた宋刻の單行呉志を見た。又、松江の韓氏に於いて宋刻小字本を見た。しかしまた、僅かに魏志九巻を残すのみである。元の池州本というものが有る。半葉十行二十二字。此較的入手しやすい。私はまたかつて二部を見た。版印は均しくすぐれている。しかし訛字が極めて多く、善本とは稱し難い。それ(善本)は思うに此の建本をおいて既にないのであろう。


  殿本巻第淆亂
建本宋諱避至廓郭等字.當爲寧宗時刊本.魏志三十巻蜀志十五巻呉志二十巻.目録各置本志之前.大題則連貫而下.爲數六十有五.殿本廢去大題.併總目爲六十五巻.而三志分巻.又各自爲起訖.前後歧出.全不相應.以云體例.似未合也.


  殿本ノ巻第ハ淆亂ス
建本ハ宋ノ諱ヲ廓郭等字ニ至ルマデ避ク。當(マサ)ニ寧宗時ノ刊本ト爲ス。魏志三十巻、蜀志十五巻、呉志二十巻。目録ハ各(オノオノ)本志之前ニ置ク。大題ハ則チ下而(ニ)連貫ス.數(スウ)ヲ六十有五ト爲ス。殿本ハ大題ヲ廢去シ、併(アハ)セテ總目ヲ六十五巻ト爲ス。而(シカル)ニ三志ヲ分巻シ、又各自起訖ヲ爲ス。前後歧出シ、全テ不相應ナリ.以テ體例ヲ云ヘバ.未ダ合ハザル似(ゴト)キ也.

  殿本巻第(順序)は淆亂(入り乱れている)
建本は宋の諱を廓郭等の字に至るまで避けている。まさに寧宗時代の刊本とする。魏志三十巻、蜀志十五巻、呉志二十巻。目録はおのおの本志の前に置いている。大題は則ち下まで貫ぬいており、巻數六十有五としてある。殿本は大題を取り去って、併せて總目を六十五巻としている。しかし、三志を分巻し、又各自それぞれに起訖(始めと終り)がある。前後が別々に出てきて、全く対応しない。よって概略を云うと、未だ合っていないようである.

  三志單行本
是本蜀志巻首.有咸平中書門下牒文一通.牒前標明蜀志.余前見單行呉志.亦冠有咸平中書門下牒文.是可三志原自單行.此後刊刻.或取單行本以資參攷.故是仍留蜀志牒文也.

  三志ノ單行本
是本ハ蜀志巻首ニ咸平中書門下牒文一通有リ。牒前標明蜀志.余ノ前ニ見シ單行呉志ハ、亦タ冠シテ咸平中書門下牒文有リ。是(コレ)三志ノ原(モト)ハ單行ニ自(ヨ)ルト可(スベシ)。此ノ後ノ刊刻ハ或イハ單行本ヲ取リテ、以ッテ參攷ニ資ス。是故(これゆえ)仍(ヨ)リテ蜀志ノ牒文ヲ留ムル也.

  三志の單行本
是の本は蜀志巻首に咸平中書門下牒文一通が有る。牒の前に蜀志と標明してある。私が以前見た單行呉志は、また咸平中書門下牒文を冠して有った。このことから三志はもともと單行であったのだろう。此の後の刊刻は、あるいは單行本を取ることにより參攷に資した。だから蜀志の牒文を留めているのである。


  殿本考証訛字可信
海源閣所藏國志.亦即此本.楊紹和跋所言殿本考証中舉正之訛字.是本一一相合.然尚有所未盡.今補校如左.

殿本考証ノ訛字ハ信ズ可シ
海源閣所藏ノ國志ハ亦即ハチ此本。楊紹和ノ跋、言フ所、殿本考証中ニ正シク之ノ訛字ヲ舉グ。是ノ本、一一相合フ。然リテ尚、未ダ盡サザル所有リ。今、補校スルハ左ノ如シ。

殿本の考証する訛字は信じうる
海源閣所藏の(三)國志はまた即わち此の本である。楊紹和の跋の言う所、殿本考証中に正しくこの訛字を舉げている。是の本では一々合致する。それでもなお、未だ尽くされていないところも有る。今、補校するのは左の如くである。


魏書蔣濟傳弊[危支]之民.倘有水旱.百萬之衆.不爲國用.考證謂似應作攰.此正作[危支].
 烏丸鮮卑東夷傳.故但舉漢末魏初以來備四夷之變云.注悉禿頭以爲輕便.考證謂一本作髡.何焯引説文鬀字注.以證髡 字之合.此正作髡.
 蜀書向朗傳.歴射聲校尉尚書.注鎮南將軍衞瓘.考證引衛覬傳.瓘爲鎭西將軍.謂作鎭南字誤.此正作西
 楊洪傳.能盡時人之器用也.注初徃郡後爲督軍從事.考證謂往郡疑作仕郡.此正作仕.
 呉書孫權傳.屈身於陛下是其略也.注呉書咨字德度南陽人.書下考證疑脱曰字.此正有曰字.
 劉繇傳.繇伯父寵爲漢太尉.注山陰縣民去治數十里.考證謂民各本倶訛作氏.今改正此正作民.
 士燮傳.壹亡歸郷里.注會卓入闕壹乃亡歸.考證疑闕作關.此正作闕.
 周魴傳.推當陳愚.重自披盡.懼以卑賤.未能采納.考證推疑作惟.此正作惟.
  時本譌文衍文奪字俗字均可矯正.
殿本從明監本出.故多舛錯.館臣雖以宋本校正.然遺漏仍多.汲古閣本.號稱精校.亦有監本殿本同誤者.今列舉如左.
一曰譌文
 魏書杜畿傳.然亦怪陛下不治其本而憂其末也.諸本治均誤知.
 張郃傳.從討柳城.典張遼倶爲軍鋒.以功遷平狄將軍.諸本從均誤後.
 龐悳傳.惟侯戎昭果毅.諸本戎均誤式.
 王昶傳.若范匄 對秦客而武子撃之.諸本而均誤至.
 蜀書先主傳.今上天告祥.羣儒英俊.並起河洛.諸本起均誤進.
 秦宓傳.宓商稱疾臥在第舎.諸本第均誤茅.
 劉封傳.先主因令達并領其衆留屯江陵.諸本其均誤兵.
 揚戲傳.維外寛内忌.意不能堪.諸本意均誤竟.
 呉書駱統傳.其姊仁愛有行.寡歸無子.諸本歸均誤居.
一曰衍文
 魏書劉曄傳.子寃嗣.注復毎問皆同者.曄之情必無所逃矣.諸本所下均衍復字.
 蒋濟傳.今其所急.惟當息耗百姓.不至甚弊.諸本急下均衍務字.
 張既傳.斬首獲生以萬數.注不欺明公.假使英本主人在實不來此也.諸本來下均衍在字.
 鄧哀王沖傳.世俗以爲鼠齧衣者其主不吉.諸本主下均衍者字.
 蜀書馬良傳.及先主入.蜀諸葛亮亦從往.諸本從下均衍後字.
 郤正傳.薛燭察寶以飛譽.注吾有寶劍五.請以示子.乃取豪曹巨闕.諸本取下均衍其字.
 黄權傳.待之如初注.注詩云樂只君子保乂爾後.其劉主之謂也.諸本之下均衍所字.
 呉書十六陸凱傳.呉郡呉人.諸本人下均衍也字.
一曰奪字
 魏書張既傳.封妻向爲安城郷君.諸本均奪封字.
 蘇則傳.帝大怒踞胡牀抜刀.諸本踞下均奪胡字.
 杜畿傳.若使善策必出於親貴.親貴固不犯四難以求忠愛.諸本均奪下親貴二字.
 蜀書劉璋傳.無恩徳以加百姓.百姓攻戰三年.肌膏草野者.諸本均奪下百姓二字.
 諸葛亮傳.因結和親.遂爲與國.注據正道而臨有罪.諸本均奪正字.
 龐統傳.先主大笑.宴樂如初.注若惜其小失而廢其大益.諸本均奪下其字.
 秦宓傳.詩云鶴鳴于九皐.諸本均奪于字.
 呉書歩隲傳.隲於是條于時事業在荊州界者.諸本均奪業字.
一曰俗字
 魏書齊王紀.西域重譯獻火浣布.詔大將軍太尉臨試.以示百寮.注斯調國有火州.諸本州均作洲.
 陳思王植傳.誠以天罔不可重離.諸本罔均作網.
 衞覬傳.茵蓐不縁飾.諸本蓐均作褥.
 徐邈傳.徐公志高行絜.才博氣猛.其施之也高而不狷.絜而不介.諸本絜均作潔.
 胡質傳.官至徐州刺史.注家貧無車馬童僕.諸本童均作僮.
 鄧艾傳.封子二人亭侯各食邑千戸.注百姓貧而倉稟虚.諸本稟均作廩.
 管輅傳末.注生驚舉刀斫正斷要.視之則狐.諸本要均作腰.
 蜀書諸葛亮傳.卒于軍.時年五十四.注憂恚歐血.又下文松之注.歐血字凡三見.諸本歐均作嘔.
 黄權傳.贍猶與未納.崇至子流涕.諸本與均作豫.
  古寫本之異同
友人有得新疆鄯善出土古寫本國志者.起呉書虞翻傳於是大怒句怒字.訖張温傳臣自入遠境句境字.凡八十行.中有蠹損.存字一千九十許.用校此本.頗有異同.今聞其物已流出域外矣.異同如左.

  古寫本之異同
友人有リテ、新疆鄯善出土ノ古寫本國志ヲ得ル者.呉書虞翻傳ノ於是大怒ノ句ノ怒字ヨリ起コシ、張温傳ノ臣自入遠境ノ句ノ境字ニ訖(オワ)ル。凡(オオヨソ)八十行。中ニ蠹損(虫食い)有リ。存スル字ハ一千九十許(バカ)リ。此本ヲ用ヒテ校スルニ、頗(スコブ)ル異同有リ。今聞ク、其ノ物已(スデ)ニ域外ニ流出ス矣。異同ハ左ノ如シ。

  古寫本の異同
友人がいて、新疆鄯善出土の古寫本(三)國志を得た。呉書虞翻傳の〔於是大怒〕句の怒字より始まり、張温傳の〔臣自入遠境〕句の境字に終わる。おおよそ八十行。中に虫食いが有る。残っている文字は一千九十ばかり。此本を用いて交合すると、頗る異同が有る。今、その物(呉志残卷)は既に域外(この場合日本)に流出すると聞いた。異同は左の如くである。

紹煕本 古本
惟大司農劉基抱權 無農字
手殺善士 無手字殺作煞 下均作煞
天下孰知之 ■誰不知之
曹孟德尚殺孔文挙 無尚字
孤於虞翻何有哉 無有字
孟德軽害士人 人作仁
何得自喩於彼乎 得作曽
不應而遽避之 而遽乙轉
又經芳営門 又經■■中芳門
當閉反開當開反閇 二句乙轉
世豈有仙人也 也作邪
権積怒非一 積作責
門徒常數百人 常數二字蝕百作十
終成顕名 成作咸
在南十餘年年七十卒 在南十餘年■十九卒
翻有十一子 無翻字句作有子十一人
汜弟忠 忠作中
聳越騎校尉累遷廷尉湘東河間太守 聳作辣無累遷至太守十字
昺 延尉尚書濟陰太守 昺作晃無尚書濟陰太守六字 以上虞翻傳
字公紀呉人也 公紀下有呉郡二字
須當用武而平之 須作唯
則脩文德以来之 無則脩
虞翻舊歯名盛 舊字触名盛作成名
又意有儒雅 在作存
著述不廢 述作術
有漢志士 士作民
遘疾遇厄 遇作逼
遭命不幸 幸作永
従今巳去 巳作以 以上陸績傳
字惠恕呉郡人也 郡下有呉字
温當今與誰為比 比下有也字
大司農劉基曰 無司字
可與全琮爲輩 琮作綜
時年三十二 三十作丗
以故屈卿行 無以字
便欲大搆於蜀 搆作構蜀作丕
功冒溥天 溥作晋
參列精之炳燿 燿作耀
呉國勤任旅力 任作恁
平一宇内 一作壹
軍事興煩 興作[亠/凶/ル]
是以忍鄙倍之羞 倍作陪羞字触
臣自入遠境 無入字
右之異同.寫本略有舛誤.然大都勝於宋本.其大搆於丕一句.友人謂足以糺正宋本之非.按張温使蜀.爲呉黄武三年.是時魏以兵力迫呉.曹休曹仁曹眞等先後進撃.權以揚越蠻夷.多未平集.内難未弭.不得不屈意求和.然外託事魏而非誠服也.故與蜀釋嫌修好.先以鄭泉往聘.逮蜀以鄭芝來報.邦交漸復.呉是時實有聯蜀圖魏之意.故於後來黄龍元年與蜀所立盟辭.痛斥操丕.且有今日滅叡禽其徒當非漢與呉將復誰在之語.若如宋本原文.便欲大搆於蜀.則與前後事實.均不相應.且果欲搆蜀.權何必以恐諸葛孔明不知吾所以與曹氏通意之語語温.温到蜀後.又何敢爲稱美蜀政之辭.是可知宋本蜀字實譌.而寫本丕字爲正.誠可謂一字千金矣.
右之異同.寫本ハ略(スコ)シ舛誤(センゴ=誤り)アリ。然レドモ大ヒニ都(コトゴト)ク宋本ニ於ヒテ勝ル.其レ〔大搆於丕〕ノ一句。友人以テ宋本之非ヲ糺正(正すこと)スルニ足ルト謂フ。按ズルニ張温蜀ニ使ヒシヲ呉ノ黄武三年ト爲ス。是ノ時、魏兵力ヲ以テ呉ニ迫ル。曹休・曹仁・曹眞等ハ先後シテ進撃ス。權ハ以テ越蠻夷ヲ揚グルモ.多クハ未ダ平集セズ。内難ハ未ダ弭(ヤ)マズ。不得不屈ノ意ニテ和ヲ求ム.然リテ魏ニ事スルヲ外(ホカ)ニ託スモ、而シテ誠服ニ非ザル也。故ニ蜀與(ト)釋嫌(対立を止める)シテ修好ス。先ヅ鄭泉ヲ以テ往聘シ、蜀ニ逮(イタ)リテ以テ鄭芝來報ス。邦交(国の交わり)漸(ヨウヤ)ク復ス。呉ハ是ノ時、實(マサ)ニ有蜀ト聯(ツラ)ナリ魏之意ヲ圖ル。故ニ後來黄龍元年ニ於ヒテ蜀與(ト)盟辭ヲ立ツル所ナリ。操、丕ヲ痛斥ス。且ツ〔今日、叡ヲ滅シ其ノ徒黨ヲ禽(トリコ)ニシ、漢ニ非ズ呉ニ與(クミ)スルニ、將ニ復タ誰カ任ズル〕之語有リ。.若(モ)シ宋本原文ノ如ク、〔便欲大搆於蜀〕タルヤ、則チ前後ノ事實與(ト)均シク不相應ナリ。且ツ果シテ蜀ト搆エント欲シ、(孫)權何(イズクン)ゾ必ズヤ諸葛孔明ヲ恐ルルヲ以テ、吾レ曹氏與(ト)通意之語ヲ温ニ語ル所以(ユエン)ヲ知ラ不(ズ)。温、蜀ニ到ル後、又何(イズクン)ゾ敢エテ蜀政ヲ稱美スル之辭ヲ爲サン。是レ宋本ノ蜀字ハ實ニ譌(アヤマリ)ナルヲ知ル可シ。而シテ寫本ノ丕ノ字ヲ正ト爲ス。誠ニ一字千金ト謂フ可シ矣.
右の異同で、寫本には少し誤りがあるものの、大概はみな、宋本よりも勝っている。その〔大搆於丕〕の一句を友人は、以て宋本の非を正すに足ると謂う。考えると張温が蜀に使いしたのを、呉の黄武三年としている。是の時、魏は兵力を以って呉に迫っていた。曹休・曹仁・曹眞等は前後して進撃している。孫權は以て越の蠻夷を揚げようとするが、多くは未だ平定参集しない。国内の困難も未だ終わっていない。不得不屈の意で和を求めた。こうして魏と構えることを外に頼んでも、だからといって服属したということにはならない。故に蜀との対立を止め修好した。まず鄭泉を以て往聘し、蜀に逮ると以て鄭芝が來報した。国の交わりは漸くもとに復した。呉は是の時、まさに蜀と連なって魏の意図を圖っていた。だからこの後、黄龍元年に於いて蜀と盟辭を立てる所となった。曹操は曹丕を痛斥(憎んで遠ざけ)た。且つ〔今日(曹)叡(魏・明帝。曹丕・文帝の太子)を滅ぼし其の徒黨(ともがら)を禽(とりこ)にし、漢ではなく呉に与して、將(まさ)に復た誰が任じようか〕の語有り。もし宋本原文の如く、〔便欲大搆於蜀〕であるとするなら、則ち前後の事實と均しく不相應である。且つ果たして蜀と事を構えんと欲して、孫權がなにゆえ必ずや諸葛孔明を恐れることを以て、自分が曹氏と通意の言葉を張温に語るのか理由が分からない。張温が蜀に到った後、又どうして敢えて蜀の政治を賞賛するような言葉を云うだろうか。是れ宋本の蜀の字はまさに誤りであることを知ることが出来る。だから、寫本の丕の字を正しいとする。誠に「一字千金」と謂うべきであろう。

〔今日滅叡禽其徒當非漢與呉將復誰在〕の「在」は『三国志集解』により「任」に改めた。
「百衲本二十四史」『史記 上』巻頭より転載 / 「.」は原文に附されているが、ピリオドではなく文節の区切りを示す。